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所謂雑記以下。表の裏に屑は掃き溜められて行くのです。Dust to Dust. 誰も読まないだろうからここにぐだぐだと長い文章を書いて見ました。
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沈黙の国。後。
心の通じ合うこと。
心を分ち合うこと。
お互いの存在を心で感じて。
お互いを心から理解できる。
穏やかな沈黙の中の。
穏やかな確信と安心。
それは、それは、素晴らしいものでした。

けれど、失われてしまった。
もはや、他人がわからないし、わかってもらえない。
絶望に渦巻く沈黙の国。

彼と彼女は、そんな中で。
わずかでも共有できるものを見つけたのでした。
目を合わせ、互いに微笑み、
景色を眺め、耳を澄ませて、
隣りに座り、肌を寄せ合い、
呼吸を聞き、声を聞き、お互いの温もりを感じました。

(一人じゃないんだ)
(私達はまだ、放り出されたわけじゃないんだ)
(ここに居る。お互いが、ここに居る)
(ずっと減ってしまったけれど、全てが失われたわけじゃない)

か細い幸せに支えられながら、
彼らはたどたどしく、使いなれない喉と舌を使い、
つたない言葉を作り始めました。
物に、音に、現象に、気持ちに、一つずつ、少しずつ。
名前をつけていったのです。

「石、山、風、花……、温かい、甘い、君」

一つ一つ、指差しながら。

「鳥、空、緑、涼しい、私」

彼らは、名前を口ずさみます。

お互いを確かめるように。

「あ、夕陽」

(綺麗だね)
(美しいわ)

手を握り合って、静かに微笑み合って。
幸せな心地。


でも。

それはあくまで幸せな気がしていただけで。
何かの勘違いで。
一時の気の迷いで。
破綻はすぐに訪れました。

「あれを取ってきて」
「これじゃないよ」
「なんで怒るの」
「感謝くらいしてもいいのに」
「してるよ、なんで伝わらないの」
「だってそんなのわからない」
「なんで」
「なんでも」

伝わる心。
中途半端に、伝わる心。
昔は、あんなにもわかり合えたのに。
今は、こんなにももどかしい。

いくら言葉を作っても。
どんなに言葉を重ねても。
それは近づくほど遠ざかる蜃気楼のように、
心へは決して届かない。

かつて通じ合ってたがゆえに。
そのもどかしさは、測り知れませんでした。

言葉は不完全だ。
言葉が誤解を生んだ。
言葉なんて、要らなかったのに。
寂しさから、喪失感から、言葉に頼ってしまった。

なんで……。

なん で……。

すれ違う苛立ちのままに。
苦しみのままに。
憎しみのままに。
衝動に任せて。

彼は。
彼女の。

首を絞めました。

首を。
絞めて。
絞めて。

絞めて。

彼女の命を奪いました。

苦しそうに喘ぐ彼女でしたが、
最期の瞬間には、笑みを浮かべて、
言葉にならない、感謝の心を、表しました。

「ありがとう」
「殺してくれて、ありがとう」
「いくら想っても、心が少しも通じない」
「こんなやり切れなさと生きていくくらいだったら」
「偽物の言葉でごまかして生きるくらいだったら」
「私は、ずっと、死んでしまいたかった」
「貴方に殺してもらえて」
「幸せです」
「ありがとう」

その心。
その思い。
その意志だけは。
沁みいるように、彼の心へ。
届いたのでした。
波紋が広がるように、国中へ。
響き渡ったのでした。

ここがまだ沈黙に溢れていた、

みんなが繋がっていた、

あの頃のように。

彼は呟きました。

「ありがとう」

「殺させてくれて、ありがとう」

「君を殺せて、幸せだ」



+++エピローグ+++

それからです。
沈黙の国に、声無き『死に際』の声が溢れたのは。
次から、次へ、絶え間なく。
色んな人が死に続けます。
だから。
人々は、それら死の声を聞き続けました。

……そうして。

そうして、
沈黙の国に秩序と安定と活気が、戻ってきました。
彼らの心には、安堵があったからです。

かつてのように、何から何までわからずとも。
息絶える瞬間にまた、他人の心と繋がれる。
生きるのが苦しいのは、自分だけではない。
誰も彼も殺したくて、死んでしまいたいんだ。

そんな安堵が。
死の共有、それだけが。

以前よりも強固に柔軟に、人と人との心を繋ぎ、
秩序と、安定と、活気と、幸福を産んだのです。


沈黙の国の人々は、今日も生きます。

誰かの沈黙する様を心に刻みながら。

自らの沈黙の時を心待ちにしながら。


黙々と、幸せな心地で。


(おしまい)

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コメント
この記事へのコメント
こころ
相手の心が見えないから気になるし興味があるしモヤモヤを言葉にしたらこんな感じなんだろなー
2011/04/19(火) 22:28:11 | | 犬の人 #4f08162284[ 編集]
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